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Captive

2008.07.18 11:04|よみきりもの
※08/07/19ほんのちょっと改訂
Captive



3月の終わりとはいえ、まだまだ肌寒い風が木々の葉を揺らしている。
きちんと手入れされた植栽に囲まれた岩風呂。
そこからは遠くの山が望めた。
ほのかに色づいているのは少しずつ綻び始めたサクラの蕾だろうか。

「・・・・素敵な景色・・・」
彼女はそういうと、ふぅっとため息をつき、両腕をぐーっと前へ伸ばした。
顔をあげると、青い空が広がる。
湯船のふちに頭を持たせかけ、全身の力を抜いた。
日々の疲れが湯の中に溶けていくようだ。
「少しは気分転換になったかしら。」
そう言うと、彼女はふと、その向こうに彼がいるであろう壁に目を向けた。

**

かつては日本という国があったその場所は、第1次星間大戦後、サクラシティという名の街が建設されていた。かの国の人々が大昔から愛した花、桜。
その花を復興のシンボルに人々は繁栄を取り戻しつつあった。
現世界では一大リゾート地として名を馳せるまでになり、ことに情緒あふれる温泉旅館が数あることで
有名になっていた。

そのサクラシティに、未沙は輝と一緒に来ていた。
輝と一緒に、こんなに遠くに旅行に来るのは初めてだった。
温泉旅館に来るのも(温泉旅館自体、復活したのはごくごく最近のことではあるが)、幼少の時に両親と一緒に行って以来であった。輝は初めてらしかった。
サクラシティのあった場所・・日本は未沙が幼少時代を過ごした場所であり、また統合戦争後マクロスに乗るまでの複雑な日々を過ごした場所でもあった。街並みは新しく整備されなおしてはいたが、やはりどことなく懐かしい雰囲気がそこかしこに残っていた。
輝は・・・名前こそ未沙と同じように日本人の名前ではあるが、父のスタントチームと共に世界中を転々としていた彼には日本で過ごした記憶はあまり無かった。
長距離パトロールで何回か飛んで来たことはあったが。

「一条様ですね。お待ちしておりました。・・どうぞこちらへ」
「え、あ、ど、どうも・・・」
和服姿の女将に案内され、緊張した様子で受け答えする輝を、未沙は微笑ましく思った。
部屋に入り、女将が戻ったあとでお茶をすすりながら彼は一言、つぶやいた。
「・・・慣れないとこにくると、緊張するな・・」
「なぁに。あなたでも緊張することなんてあるの?」
くすっと未沙が笑った。
「当たり前だろ。こう見えても、意外と気を遣うんだぜ、俺。」
「そんな風には見えないけど。いつも、マイペースじゃない。
・・そこがあなたらしいといえば、あなたらしいんだけど」
「俺らしい、ね・・。」
めずらしく輝が黙り込む。
その様子に、ここへ来た目的のひとつを思い出した未沙は、慌てて言葉を継いだ。
「ね、せっかく温泉にきたんだから、お風呂に行きましょうよ。広い露天風呂があるそうよ。
輝、初めてでしょ?緊張したんだったら、お風呂でゆったりしてきたらいいわ。」
気遣うように未沙が自分の方を見ている。
輝はふっと微笑むと、妙に明るく答えた。
「・・・それじゃ、そうしますか。」
そして2人は、それぞれの露天風呂へと向かった。

**

「ねぇ、未沙。一条くん、何か言ってなかった?」
クローディアに突然聞かれたのは半月ほど前のことであった。
「何か、って何?」
クローディアの質問の意図が分からず思わず聞き返す。
「あなたには何も言ってなかったのね。…坊やも少しは大人になってきつつあるってことかしら」
クローディアはふっとため息をついた。
「何?何のこと?輝に何かあったの?」
心当たりのない未沙には何のことなのか分からない。
「…彼、今いろんな意味で大変みたいよ。」
クローディアが呟いた。

メガロードの航空護衛隊は現在、出航後に備えた訓練、および地球残留部隊とのローテーションによるパトロールを任務としている。
輝はその隊長として、人員配置、訓練、そしてスケジュール管理とすべてを任されていた。
飛行機を飛ばすのは昔から得意だった彼だが、管理職的な任務をてきぱきとこなせるタイプではなかった。もちろん、不器用だが誠実な彼の性格そのままに、遅いなりにも確実に丁寧に仕事をこなしてはいた。他の部署に迷惑をかけたり、部下の訓練を適当にするということも今まで無く、部下からの信頼も厚かった。グローバル総司令を始めとする上層部からの評価も高い。これまでトラブルもこれといってなく、訓練中の事故も、パトロール中の事故も、今のところはなかった。
彼が重責と激務に追われているのは未沙も知っていたが、航空管制任務からはずれ、メガロードの艦長としての職務に追われるようになってからは、バルキリー隊の話は管制担当からの報告で伝え聞く程度であった。輝も最近は忙しい未沙を気遣ってか、彼女の前で任務の話をすることはだんだんと少なくなっていた。

「部下の育成方法をめぐってね、マックスくんとやりあったらしいのよ。」
クローディアが教えてくれた。

マックスは地球残留部隊のエースの一人として、輝と同様、新人パイロットの育成、訓練、隊の編成などを担っていた。天才肌の彼は、彼らしく、管理業務もそつなく、てきぱきとこなしていた。
また、明るいキャラクターは相変わらずで、部下の人気もあり、いい評判ばかりが聞こえてくる。
ただ。
自身が天才ゆえか、その選抜方法や指導方法がクールだ、という噂はあった。マックスは、才能の無いもの、彼が能力がない、見こみがないと見限ったものは自分の隊から容赦無く切り捨てていく。輝にはそういうやり方がどうしても受け入れられなかったらしい。マックスが切り捨てた隊員が輝の隊に流れてくることも度々あった。輝は隊員達を、自分の隊に配属されるまでの経歴うんぬんで差別するようなことはなかったが、何より彼ら自身がどこか劣等感を持ってやってきたので、隊の士気の低下は否めなかった。彼らの士気を高めるための輝の努力は並大抵のものではなかったろう。
輝は、たとえ多少能力に見劣りする隊員に対しても、なんとか彼らの能力を引き出せるよう腐心し、自信をつけさせるように仕向けた。決して切り捨てるようなことはなかった。マックスからすれば、そんな輝のやり方は、情にほだされた生ぬるいやり方に見えたのかもしれない。

そして、ついに二人はぶつかった。
無論、共に大戦を生き抜いた戦友同士、またプライベートでも仲のよい間柄ではあったが、このことに関しては双方とも譲らず、議論は平行線のままだった。
日頃から親しいがゆえに、遠慮のない議論になったのかもしれない。
結局、それほど弁が立つわけでない輝のほうがどうしても分が悪くなり、その時はマックスに言い負かされたような形で終わってしまった。
決して後味の悪い終わり方ではなかったが(マックスもそれなりに先輩である輝を最後にはフォローしたようだが)輝にとってはかなり辛い結果となってしまった。
輝には、自分達がメガロードと共に旅立った後、地球に残った部下達のことを心配し、マックスのやり方に一言いっておきたいという意図もあったので、自分の考えを理解してもらえなかったことは相当堪えたのであろう。しばらくは黙り込んだままだったらしい。

未沙がメガロード関連の職務にウェイトを置くようになり、総司令部のオペレーターの統括はクローディアが担っていた。2人の「事件」は報告という形ではなかったが、クローディアの耳には嫌でも入ってきた。
その後特にまた諍いが起こったわけではなかったが、クローディアはどうも輝のことが気にかかり、その後の彼の様子を未沙に尋ねようと考えたらしかった。

「知らなかったわ・・・」
未沙は一通りクローディアの話を聞き終えると、深いため息をついた。
「どうして話してくれなかったのかしら・・・」
「さぁ・・・。彼、本当に変わった様子はなかった?」
「・・ええ。」
クローディアの問いかけにそう答えつつ、未沙はここ最近の彼の様子を思い出してみた。
相変わらず、すれ違い生活なので一緒にいる時間はそう多くはない。
しかし、そう言われてみると思い当たるふしが無いわけではなかった。
数日前に食事を共にしたとき、めずらしく彼が黙りこくっていることがあった。
いつもそんなにおしゃべりなわけではないが、食事の手を止め、まるで考え事をしているように黙ってしまうことは今までにはないことだった。未沙が声をかけると、ぎこちない笑顔で、なんでもないと答えてはいたが。
そのことをクローディアに話すと、彼女は苦笑した。
「やっぱり、相当堪えてるみたいね。自信なくして欲しくないんだけど。彼の部下の育成方法、私は素晴らしいと思うわ。──マックス君には悪いけど。」
「・・・ありがとう、クローディア。」
「彼が言わないんじゃ、励ましようもないかもしれないわね。でも、彼の支えになってあげられるのはあなただけよ。なんとか一条君に自信を取り戻して頑張ってもらわないと。統合軍の全パイロットの教育方針がかかってるんだから。あなたも自艦の航空隊長が落ち込んでちゃ、困るわよね?」
最後は本気とも冗談ともとれないようないたずらっぽい口調で言うと、クローディアは未沙の肩をポンと叩き、ウィンクをした。
「出きる限り協力するから、何か方法が見つかったら言って。」
「・・え?」
「多少の無理は押し通してあげるわ。」
訝しげに尋ねる未沙に、もう一度クローディアはウィンクをした。
「そんな・・・」
「いいからいいから。それじゃ、頑張るのよ!」
『・・・そんなこと言われても私どうしてあげたらいいのか分からないわ・・。』
未沙は途方に暮れたが、なにより輝のことがやはり心配だったので、彼女なりに考えてみることにした。

そして、いろいろな人間に「落ち込んだときにどうやって立ち直るか」を彼女らしく真面目にヒアリングをかけ、結果、3人娘の意見である「どこかにパーっと旅行に行って、嫌なこと忘れちゃう!」というベタな結論に落ち着いたのであった。
そして、クローディアが無理を押し通してくれたおかげで2人揃って連休を取り、1泊2日ではあるがこうしてサクラシティまでやってきたのであった。

**

輝は広い浴槽に思いっきり手足を伸ばして、湯の中に浮かんでいた。
顔を上げると真っ青な空が広がっている。
『いつもはあそこを飛んでるんだよな・・・』
暖かい湯につかり、空をぼんやり眺めていると思い出すのはやはり飛行機に乗っている時のことだった。
小さい頃から乗っている飛行機。楽しい想い出はいつも飛行機と共にある。
飛行機の操縦席から見る景色は絶対に地上からは味わえない絶景だ。
そしてスピードに乗る爽快感。
体にかかるGも心地よく感じる程だ。
前を飛ぶのは、在りし日のフォッカー、そして父。
今では自分の前を飛ぶ人間はいなくなった。
それでも美しい空は変わらない。
飛行機に乗る楽しさも変わらない。
乗っていた飛行機が戦闘機に変わっても、コックピットから見える空は昔のままだ。
昔と変わったことは──宇宙空間を飛ぶようになったこと。
そして、指揮官になった今は人の命を預かるという責任を負うようになったことだ。

輝はおもむろに、湯をすくって顔をジャバジャバと洗った。
この間の一件は・・・。やはり彼の心の中でまだ燻っていた。
マックスに言い負かされた(と輝は感じていた)ことが悔しくて、自分の考えを伝えられなかったことが、
理解してもらえなかったことが情けなくて、残念だった。
俺のやり方はやっぱりおかしいのか?
マックスの言うように、ゆとりのない戦場で、能力のない奴をのんびり育てようなんて間違っているのか?
今まで心のよりどころにしていた自信が崩れ落ちそうになった。

顔についた水滴をざっと手でぬぐうともう一度彼は空を見上げた。
空はどこまでも高く、そして青い。
きらきらと降り注ぐ太陽の光。
美しかった。

彼は、ふっと微笑み、大きく息を吐いた。

──でも、やっぱりいいじゃないか。
そいつのいいところを伸ばしてやれば。
それが戦闘時、誰か他の奴が不得手な部分をフォローする事になるかもしれない。
人間、一番弱い時というのは自分に自信が持てないときだ。
どんなときでも、自分に自信があればなんとかなる。
時間はかかっても、自信を持てるように教育してやることは、軍のパイロットの指揮官として間違ったことではない。
そうしてゆっくりと時間をかけて付き合っていくことで、自分も部下たちの長所短所をしっかりと把握することができる。このことは、今後強力な武器になる。
長い長い、これからの航海においても。

『なんだか、くだらないことにひっかかってたのかな、俺』
ゆったりと温泉につかりながら、大事な事を思い出せたような気がした。
顔にあたる外の風がここちよかった。

ふと、未沙のことを思い出した。
彼女が自分を旅行に誘ってくれた訳。
未沙は何も言わないが、どこからか聞いていたとしてもおかしくはない。

輝は、今回のことを未沙には話していなかった。
以前の彼なら愚痴ってしまっていたかもしれない。
このどうしようもない気持を一緒に受け止めて欲しかったといえば、確かにそうだ。
優しい彼女のことだから、きっと自分が愚痴ればとりあえずは聞いてくれるだろう。
そして、真面目な彼女のことだ、どうしたら解決できるか、一緒に悩んでくれたかもしれない。
しかし、人を統括する立場になって彼女の大変さを改めて実感している今、余計な負担をかけたく
なかった。
これは、自分の問題。
自分だけで解決したい、という気持ちがあった。
それに、最近はお互い激務に追われている毎日で、せめて彼女と一緒に過ごす時間は──
任務のことを忘れたかった。
軍人同士ではない、ただの恋人同士の時間を過ごしたかった。

だから、話してはいなかった。
けれど、一人で抱え込むにはやはり、かなり辛い出来事であった。
だから、彼女が旅行に行かないかと誘ってくれた時も最初は乗り気ではなかった。
こんな気持のまま出かけても楽しめないのでは、と考えたからだ。
しかし、せっかくだからという彼女を断りきれず来てみると、やはり楽しかった。
未沙の笑顔を見ていると、嫌な出来事も忘れてしまえた。

けれど、彼女が今回の件を知っていて、それで誘ってくれたのだとしたら・・・

嬉しいような、情けないような。
複雑な気持ちだった。

**

「どうだった?初めての露天風呂は。気持ちよかったでしょ?」
輝が部屋に戻ると、未沙はすでに部屋に戻っていた。
窓際に座って外の景色を眺めていたようだった。
「・・・ああ。風呂に入りながら空が見えるなんてな。よかったよ。」
複雑な笑みを浮かべながら答える。
「そう、よかった。」
未沙は輝の返事に嬉しそうに微笑んだ。
夕暮れ時で部屋は薄暗く、彼女は彼の表情までは読み取れていないようだった。
たわいもない話をしながら寛いでいると、ほどなくして部屋に料理が運ばれてきた。
こんなご時世にしては豪華な料理が並んでいる。
二人の顔が自然と綻んだ。
「すごいご馳走ね。」
「ああ。めったに食えないよな、こんなの。」
「そうよ。心して食べなくちゃね。・・ビールいかが?」
未沙がにっこりと笑って輝のグラスにビールを注いだ。
輝も未沙のグラスに注ぐ。
二人で乾杯して、輝は一気にグラスを空にした。

旅館備え付けのものとはいえ、浴衣を着た未沙はいつもと違った雰囲気で、輝はどきりとした。
風呂上りで髪をあげているので、うなじがあらわになっている。
温泉で温められ、いつもは透けるように白い肌が、ほんのりと桜色に染まっている。
いつもはそんなに思いもしないが、改めて彼女は美しいんだと感じた。
『俺にはもったいない彼女だよな。』
ふとそんなことを思う。
『…未沙は、本当に俺なんかでいいのかな…?』
未沙は、自分が料理を食べ、酒を飲むのをとても嬉しそうに見ている。
彼女自身ももちろん、この旅行を楽しんではいるのだろうが、むしろ自分が楽しんでいる事を喜んでくれているように感じてならなかった。

きっと、さっき風呂場で頭によぎった考えが、彼の心にひっかかっているからなのだろうが。

「未沙。」
食事を終え、布団に転がってテレビを見ていた輝が、おもむろに尋ねた。
「なに?」
「・・・・もしかして、聞いた?俺とマックスの話。」
その問いに未沙は一瞬とまどいの表情を浮かべたが、やがて静かに口を開いた。
「・・・・ええ。クローディアからね。」

彼は起き上がると彼女の方を向いて座った。
「もしかして、この旅行も、それで誘ってくれたの?」
「それだけが理由じゃないけど、少しでもあなたの気分転換になれば、と思って。」
やっぱり、と言う表情で彼は呟いた。
「ごめんな、未沙も忙しいのに、余計な気を遣わせちまって・・。」
そして彼はうつむいて、またポツリと小さな声で呟いた。
「……俺、つくづく情けないな…。いつも未沙に心配かけて…」
その言葉は自嘲の響きを含んでいた。
未沙は、そんな彼を優しく見つめると、そっと彼の手に自分の手を重ねた。
「ね、輝。」
「・・・なに?」
「情けないなんて──そんなこと。私は、あなたがいてくれるだけで、とても心強いのよ。
どうしてか分かる?」
「・・いや。」
「誰かに非難されても、否定されても、それが任務上のことだろうと、それ以外での人間関係でであろうと、例え敵がたくさん回りにいるとしても、この世の中で一人だけは・・・・私のことを分かってくれる人がいるって信じられるから。」
未沙はそういうと輝をじっと見つめた。
「あなたがいてくれることで、私は強くなることができる。私も──あなたにとって、そういう存在でありたい。どんなことがあっても、少なくともあなたには理解者が一人はいることを覚えておいて欲しいの。」
「未沙・・・。」
「私の前でまで、頑張る必要はないのよ。私はあなたにとって、心休まる場所でありたいの。私と一緒にいることで、あなたが穏やかな気持ちになれるのなら・・・こんなに嬉しいことはないわ。」
そこまで言って、未沙は少しすまなさそうにうつむき加減になって言葉を継いだ。
「・・・私がどうしても職務上あなたと関係あるところにいるから、言いにくいのかもしれないわよね・・。ごめんなさい。でも、詳しいことは言えなくても、辛いときは辛い、悲しいときは悲しいといってくれてかまわないのよ。私は、その気持ちを受け止めてあげることしかできないかもしれないけど・・」

輝は言葉が出なかった。
自分が少しは彼女の支えになっていることを知って嬉しかった。
そして、彼女が自分のことをこんなにも大切に考えてくれていることを知ってたまらなく嬉しかった。
彼女の言葉に、癒されている自分がいる。
彼は何も言わず静かに彼女を抱きしめた。
言葉に癒され、甘えたくなってしまった。
彼女の温かみを感じ取り、肌のぬくもりにも癒されたくなった。
「輝・・・?」
「・・・しばらくこのままでいさせて」
抱きしめた腕から彼女のぬくもりが伝わってくる。
そして自分の顔の直ぐ横にある彼女の肌から立ち上る彼女の匂い。
輝はなんともいえない安心感に満たされていくのを感じた。

輝の行動に未沙はちょっと恥ずかしそうに微笑んだが、おずおずと手を伸ばし、
彼の髪を優しくなでた。
ちょっと硬くて癖のある、黒い髪。
顔を近づけると彼の匂いがした。
子供みたいに自分にしがみつき、目を閉じてじっとしている彼。
私の大切な人。
愛してやまない人。
私にできることはなんでもしてあげたい。それであなたが元気になれるなら。
私にだけはどんな情けない姿でもさらしてほしい。甘えて欲しい。
あなたがそうできる、唯一の存在でありたい。

輝は顔をあげると苦笑しながら一言、小さな声で呟いた。
「未沙にはさ・・・。」
「え?」
「・・・なんか、俺のこと全部読まれてる気がするよ。」
そういうと彼女をひととき真剣なまなざしで見つめ、そしてゆっくりと顔を近づけ、
そのまま彼女に覆い被さった。
未沙が少し戸惑った表情で彼を見上げると、彼は彼女の耳元に顔を寄せ、小さな声で低く囁いた。
「甘えさせてもらっても、いい?」
彼も恥ずかしいらしかった。
未沙は目を閉じて、答えた。
「ええ、どうぞ・・」

──結局、俺はいろんな意味で、このひとにはかなわないのかもしれないな・・・

未沙に溺れながら、輝はぼんやりとそんなことを思った。



おわり

* Captive…「(あなたの)トリコ」
* Imaged from "リボンの騎士" by Southern All Stars (Album "KILLER STREET")



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コメント

桜陰堂さん、ようこそ(^^)
コメントありがとうございますv-344
輝の台詞、気に入っていただけてよかったです。しかも男の方に・・。ほっとしました。
私の書く文章は、書くときに流れに任せて書くので、桜陰堂さんのようなしっかりとした文章にはなかなかなりません。。でも優しい印象を持っていただけて、よかったです。
また遊びにきてくださいね♪

お邪魔します

 COWさま、初めてお邪魔します。夏前にお訪ね頂いたのに・・・、僕にとって地獄の三ヶ月が終わり、やっと自分の時間が少しずつ持てるようになりました。
 幾つか読ませて頂きました、文章が自然で優しくて、凄く読みやすく感じました、そして、会話にしろ、独白にしろ台詞に無理がなく、抵抗なく受けいれられます、この回は特に輝の台詞がいいですね。「この台詞を言わせてやろう」という書き方ではなくて、この場面、輝や未沙だったらどう言うだろうと登場人物の身になって書いてるからだと思います。「・・・未沙は、本当に俺なんかでいいのかな・・・?」、「・・・なんか、俺の事全部読まれてる気がするよ」、輝も未沙も本当に優しいですね。
 また、近いうち寄らせてもらいます、では。

シリウスさん、ありがとうございます(^^)
私のマックスくんも(多少劇場版のクールなイメージが入っていることは否めませんが)決してテレビ版のマックスくんとキャラが違ってるわけじゃあないのですが、シリウスさんのおっしゃるとおり、仲がいいから、よく分かっているからこその意見の対立というものもあったかなあ、と思ってこの話になったわけです。分かってもらえてうれしいです。
・・・・とはいいつつ、この話を書こうと思ったきっかけは、単に輝と未沙に温泉旅行に行って欲しかったからなんですが・・(^^;)タイトルもそっちだし・・。
楽しんでいただけたならよかったです☆

私の前では頑張らなくていいのよ!!

とってもいい言葉ですね・・・・
輝の胸に強く響いたことでしょう~

マックスとは仲がいいから・・・おたがいわかっているから・・・責任の重大が・・・
だからーぶつかるって事あるんですよね。

私も輝と温泉行きたい~
非公開コメント

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